- 井之頭五郎「東京都 府中市のステーキ」 投稿日 2024年5月2日 12:05:10 (プロデューサーさんっ!SSですよ、SS!)
…通り雨で良かった。
電車から降りても降っていたら、コンビニで傘を買う羽目になっていた。
「…もう降らないよな?…ふぁあ…」
……いかん。最近欠伸ばかり出る。
気を引き締めねばならんな。
時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである。
『東京都 府中市のステーキ』
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しかし、実に丁寧に作ってくれたものだ。
皿一つに、こんな梱包しちゃって。
…日本の陶器コレクターのスヴェンが大事にしていた平安時代の日本茶碗。
それを是非欲しいと懇願してきた人がいると聞いた。
「……」
『金に糸目はつけねえよ。頼むぜ…』
『は、はぁ…』
……ずいぶん怖い人だった。
電話越しでも何となく分かる。
……これから、会うのか……。
……道場の先生なのか。
ますます、心配。
……入りづらい。
「…すいません。本日お約束していた井之頭と申しますが…」
こんな黒塗りの玄関、本当にあるんだなあ…。
チャイムどこか、分からん…。
「は~い!少々お待ち下さいね!」
「え、ええ…元々はオークションだったらしいのですが、ご主人様が出品者にダイレクトで連絡をした所、二つ返事でOKだとの事だったので…」
「…そうですか。…きっと徳川さんから何か吹き込まれたんだわ…」
「……あ、あの?」
「は、はいはい!折角注文してしまった物ですから、ちゃんと払います!」
「い、いえ、返品も大丈夫ですよ。…それより、ご主人は?」
「そうですねぇ…もうすぐ稽古が休憩になるので、しばしお待ち下さいな?」
「は、はい…」
……傷だらけに、黒の眼帯。
………丹下段平………。
「…今、失礼な事を考えたか?」
「い、いえ滅相もないです!」
愚地独歩さん……めちゃくちゃ怖いです。
「ん……おお、こいつぁいいじゃねえか。井之頭さん、アンタに頼んで正解だったみてぇだな…」
「…あ、ありがとうございます…」
……ダメだったらどうなってたんだろう…。
「礼と言っちゃあなんだけどよ。…おい!あれ持ってきてくれ!!」
「はい!!」
「……アレ?」
…アレってなんだろう…。
「…ん?おお、ちっと上物が入ったんでな…」
「は、はぁ…」
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